Tears of Kingdom

 

 傑作であった。

 傑作……ではあったのたが、今作ToKはどういうタイプの傑作だったのか?前作であるBreath of the Wildはプレイして1時間もしたら「…これは歴史に名を残す傑作では?」と打ち震えるタイプだったが、今作ToKは「やっていることが凄まじいのだが、どう凄いのか言語化に苦しむ」という印象から始まった。
 前作と同じように、最初に能力を獲得していくチュートリアルフェーズは、行うべき事が複雑化しているせいか、新鮮味が薄れているせいか正直かったるく感じる。しかし、この先凄い事が待っているのだろうなと感じさせる自由度・ビジュアル・そして世界の空気に引っ張られ…ハイラルの大地に降り立ったあとはプレイが止まらなかった。
 今はメインチャレンジ、祠、エピチャレをコンプ、ミニチャレは半分くらい、マップは達成率65%くらい…で書いてる。まさかこんなに素晴らしい続編が出てくるだなんて……。


 人気作品の続編、というものは歴史上いくつも存在する。そもそも多種多様なゼルダシリーズの中にも「その後を描く」というタイプの続編が存在するくらいだ。しかし、こんなにも見事に「直接の続編」をやっているものを、僕は他に思いつかない。ToKは、「同じようなフィールド」「同じような登場人物」を使って、かなり違うプレイフィールを提供しながら、新しい物語を描きっている。
 そしてそこで描き出されているものは、BotWよりも数段上の——ひいては、ゼルダシリーズ全体でも最上級の——ビジュアル・ストーリーだった。
 
 ゼルダというシリーズは、全体的にはストーリーが薄め……というかゲームプレイ上語られる物語そのものは比較的アッサリとしているものが多かった。ゼルダの風潮として、王道ファンタジー風味が多かったという点でも、プレイヤーに衝撃を与えるような物語構造にはしづらかったのではないだろうか。そして、オープンワールドの新境地を切り開いた、"オープンエア"である前作は、余計に複雑な物語構造と相性が悪かった。
 しかし、今作はゼルダでありながら、オープンエアでありながらも強固な物語を展開し、プレイヤーに主要キャラクターへの強い感情移入を起こさせ、Switchでありながらも圧倒的に美しいビジュアルも相まって、とんでもないビデオゲーム体験を提供してきた。基本的にはフィールドを歩き、殆ど物語が進まない時間が多い作品でありながら、キーポイントではオープンワールド作品とは思えない、感情を揺さぶる展開が行われる。前作が孤独な時間が多かったのも相まって、今回は"絆"をこれでもかと感じる、強い物語体験を得ることがきた。


 恐らくこれは、"続編"であることも大きい。
 ハイラルの世界は、前作BotWをベースとしながらも、フィールドも変わり、そこに住む人々も変わっている。明確に示されてはいないが、読解が苦手な人でも「数年経ったんだな」と判る変化がそこかしこにある。変わらないもの、変わったもの、これまでのことを引きずりながら前へ向かおうとする世界。単なるRPGだったら、恐らくここまで多種多様に描写することはできなかっただろう。
 特に、前作でも人気キャラであった英傑ミファーの弟であるシド王子の描写は、前作経験者ならかなり魅力的に映るのではないだろうか。(共闘キャラとして性能がイマイチなのが残念だが)彼は、前作ではノー天気な三枚目キャラという印象に終始するのだが、今作は一族の王位継承者として責任感を持ち、姉を救うことができなかった負い目を未だ抱えながら闘う…少しだけ成長した姿が見える。「立派になった」姿が出てくる訳ではなく、少し変化がある…くらいの状態で登場するのが、本当に直接の続編を感じさせて良い案配になっているよう、僕には思えた。
 BotWは「これからのオープンワールドはこうでなくちゃ」というものを見せつけ、実際にフォロワーも登場していくほどの影響を見せた。そしてToKはオープンワールドで強い物語を駆動させていくというのはこういうことだ、というのを見せつけた作品だったと思う。もちろん、これまでにも強いシナリオで引っ張っていくオープンワールド型作品は登場しているが、レールが敷かれていて、それを辿っていく必要があるタイプのものが多かった。それを、BotW同様に「やってもいいし、やらなくてもいい」としながらもプレイヤーを物語に没入させる演出は、本当に素晴らしかった。
 
 そして、当然ながらプレイヤーが干渉できるものごとの多さ。これは正直前作を大きく超えていると思う。クエストのバリエーションも増え(直接検証した訳はないが、能力のバリエーション増に伴い、中身も多岐に渡っているように思える)、ウルトラハンドで作られている訳の分からないオモシロ機械は、前作プレイ時に「何でもできる」と思わせた感覚を大きく超えた自由度を我々に提供している。
 圧倒的なフィールドを踏破していく、というプレイ内容は変わらない(それも、そのうち数割は前作と同じだ)にも関わらず、使える能力が違うだけでここまでプレイフィールが違ったものになるというのも、"続編"として素晴らしい事だと思う。
 今作は事前に告知されていた空のフィールドに加えて、広大な地下、そして地上のそこかしこに追加された洞窟が存在する。前作で見知ったはずの地上でさえ、財宝などが設定された洞窟探しが加えられ、本当にフィールドが3倍になったように感じた。それぞれのフィールドに意味があって、それが大成功しているかというと全肯定するほどではないのだが…BotW/ToKはやはりフィールドが作るゲームなのだな、というのを感じさせるボリュームはあった。
 敵キャラクターの種類も増え、前作が抱えていた後半部でのマンネリも解消され、チュートリアルの長さを除けば本当に欠点のようなものが見当たらない作品になったと思う。
 
 僕は前作をガッチリと遊んだので、同じフィールドについても数年の変化を時折感じながら旅をすることができたのだが、今作が初見の人はどう思っただろう?恐らくかなり印象が違う筈だ。それくらい、BotWと「世界が繋がっている」感覚を持ちながら旅をする事ができた。
 
 ゼルダのアタリマエを見直してもう10年、その間に出た大作ゼルダは神トラ2とBotWだけだが、それでも、もうこれこそがゼルダだと人々に印象づけるようなBotWからの見事のアップデート。前作に足りなかったと思えるものをひたすらに足し、良かったものは更に磨きをかけ、人々をハイラルへと誘う、そんな作品がToKだった。
 ゲームプレイの最終盤、長いムービーが続きながら最後の戦いが行われているところからもう感情を全力で殴られっぱなしで、そしてプレイヤーが入力すべき最後のボタン操作は、あれはもう涙を流しながらボタンを押下したのを覚えている。現状ToKにしか成し得ないあの演出。
 あれほどまでに美しいゲームの終わりは、中々存在しないのではないだろうか。

 

 冒頭に貼った画像の意味、最後までプレイした人は理解してもらえると思う。本当に素晴らしかった。次のゼルダの出来が恐い。